「陽口(ひなたぐち)」という言葉の広まり方
Twitterを見ていたらこの投稿が目に入った。既視感がある気もしつつ、脊髄反射的に「陽口(ひなたぐち)」って造語だよなあと思う。
「陰口(カゲグチ)」の
— あまり知られていない雑学 (@maisannkaka) 2018年12月25日
反対語に「陽口(ヒナタグチ)」
という言葉があるらしい。
「当人のいないところで
その長所について大いに語り合うこと」
なんだって。
悪口ばかり言ってないで
タマにはイイところも
話してあげなきゃね。
今回調べた範囲での結論から言うと、「陽口」はここ5年くらいで広まった(or作られた)造語である可能性が高い。これについては2016年の以下の記事でも指摘されていて、調べるのも今更感が拭えないのだけど、この言葉の広まり方が気になったので少し時系列で追っていく。
「陽」一文字で「ひなた」と読むのは人名用の当て字感が強いので個人的には「ひぐち」の方が穏当だと思うけど、「陽口」の考えを否定するための記事では全くない。人を褒めることが大切だというのには全面的に同意だし、自分も人を褒められる人間でありたいものだと常々思っている。
2011年以前
Googleで検索してもほとんど情報が出てこない。Twitterで検索すると2008年に投稿された次のツイートが一番古い「陽口」を含むもののようだ。(ちなみに「ひなたぐち」で検索すると「ひなたぐちゅぐちゅにしたい」というツイートが出てくる)
@enraku じゃ陰口に対抗して陽口いこうよ。enrakuイカス
— るのー (@renault) 2008年11月24日
2011年までを見ると、本人に対して、あるいはWebというオープンな場で悪口を言うことを「陽口」と呼んでいたツイートが多少見受けられる。陰⇔陽を入れ替えたものの、「その人が居ない場所」⇔「その人に対して、その人が居る場所」という意味で範囲や対象を反対にしているだけで、悪口を言う点は変わっていない。
ツイッターで陰口言うなって言われても、ネットの波に乗せて全世界に発信される陰口は陰口といえるのだろうか。どっちかって言うと陽だよね陽口。
— 鐚銭 (@bitasen) 2011年10月19日
2012年
2012年になるとバズったツイートと同じ意味での「陽口」に関するものが見つかる。陰⇔陽が「その人の悪口を言う」⇔「その人の良いことを言う」という意味で逆転しているのだ。2011年までには発見できなかった用法である。
ただし「陽口」という言葉があるのではなく、自分が思いついたような具合で投稿していて「陽口」を元々ある言葉としては認識していないことがうかがえる。その一方でまだまだ、本人に対して悪口を言う「陽口」もヒットする。
本人のいないところで悪口を言う「陰口」の逆で本人のいないところで良いことを言う、という行為になんかうまい表現はないかと考えた。陽口。ひぐち?ようぐち?…音がイマイチだなぁと思って検索してみると「ひなたぐち」という言い方を当てているのを発見。秀逸!
— Tsuyoshi Morita (@sakato0927) 2012年3月4日
【陰口】があるんだから【陽口】があっていいだろう。本人がいないところでその人を褒める。『たたく』に対抗して『撫でる』で【陽口で撫でる】
— チャクデバ@銀色モフリスト (@chaku_deba) 2012年8月21日
人が見てない所で悪口いったら陰口だけど、人が見てない所で褒めてたら何て言うの?陽口?
— ぱにかみさn (@82k3) 2012年10月29日
陰口の逆ってなんていうの? 陽口? そういうの言っていきたいよね。あの人が褒めていたよってどこかで伝わりますようにって想いをこめるのさ。
— 辰 (@tatsu55555) 2012年11月12日
2013年。ここで「陽口」がバズる
2013年3月の以下の「陽口」に関するツイートがバズり、ここで初めて「ひなたぐち」という読み方も記載される。
陰口の反対で、本人に直接悪口を言うことを陽口というのかしら。と思って調べてみたら『その人のいないところで、その人のよいところ、素晴らしさについて話すのが「陽口(ひなたぐち)」』と出てきて己の卑しさに落ち込む
— にしざきびょうや⑨ (@b_nishizaki) 2013年3月7日
またこのツイートに対して以下のリアクションがあり、この時点で「陽口」は検索してもほとんどヒットせず、とある人の造語なのではないかと指摘されている。残念ながら当該Facebookアカウントが既に削除されているのか、元ページは確認できなかった。
このバズり以降、「陽口」が「その人が居ないところで、その人の良いところを言う」という意味で使われる例が増えていき、「その人が居るところで、その人の悪口を言う」という意味での用法は減っていく。またbotや転載によって「陽口」が度々バズっていくのもこれ以降である。そして今回バズった投稿の元になったのは以下のツイートと思われる。
「陰口(カゲグチ)」の反対語に「陽口(ヒナタグチ)」という言葉があるらしい。「当人のいないところでその長所について大いに語り合うこと」なんだって。悪口ばかり言ってないでタマにはイイところも話してあげなきゃね。
— 片岡K (@kataoka_k) 2013年5月21日
まとめ
ツイートを 追って分かる こともある。