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チョベリバ!90年代回顧の映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」

「SUNNY 強い気持ち・強い愛」を観てきた。この映画は公式サイトにも記載があるとおり、韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」のリメイクなのだけど、原作(「永遠の仲間たち」)に忠実なわけでも換骨奪胎してるわけでもなく、リメイクによるマイナスが目立つという点で駄作と言いたい。

単純に90年代を回顧したい人が見たら楽しめる内容であるとは思うが、私はこの映画で描かれるコギャルカルチャーは知識として知っているものの体験した世代ではないのでハマらなかったというのも大きいことは断っておく。後でも書くけど、原作では80年代の韓国を振り返りつつも友情や人生の再生がテーマになっている一方で、本作(「強い気持ち・強い愛」)では90年代回顧こそがメインテーマでその他の要素は完全に蔑ろになっている。これは映画冒頭の安室奈美恵のニュース、最後のシーンとスタッフロールからも明らかだ。

また原作を全く知らない人には良い話だと映ると思う。大筋は原作と変わらないので良く出来ているのだ。ただ、それはリメイクによるマイナス要素があったとしても、原作がそれに耐えられる程によく出来ているからなのであって、原作を知っていると物語の重要な要素が削られていることに気が付くだろう。

原作の優れたストーリーという太い屋台骨があるから映画として成り立っているものの、その上に乗っているのは無理やり押し込められた90年代の音楽であり、テーマ変更に伴って屋台骨は大きく削られている。そんなわけで私はこの映画を評価できない。 本作で良かったのは三浦春馬と山本舞香の二人。三浦春馬というイケメンがイケメンを演じるのは、やりすぎな演出も相まって面白かったし、山本舞香は女子高生グループのリーダー格で立ち回りも重要な芹香役をうまく演じられていた。その他の俳優陣もスクリーン映えするので、視覚的には飽きない。

あと、本作は引退した小室哲哉が音楽を担当している貴重な作品だ。残念ながら90年代のJ-POPに押されて、記憶に残る音楽はなかったけれども。

「SUNNY 強い気持ち・強い愛」Original Sound Track

「SUNNY 強い気持ち・強い愛」Original Sound Track

さて、以下ネタバレを含みつつ感想。

劇中で登場する曲から考えると95年~97年くらいに女子高生をやっていて、現在として描かれる2018年時点で40歳前後という設定になっている。そもそも疑問なのだけど、その世代の人が高校卒業後に全く再会せず連絡先も分からないのに現実感がない。原作だと80年代なので連絡手段に乏しいのは想像に難くないんだけど、90年代日本ではポケベルの少しあとにPHSが女子高生にも広まっているし、これくらいの世代だとmixiやFacebookもやっていてもおかしくない。まあ映画の都合もあるだろうし、彼女たちが「たまたま」そういう人たちじゃなかったとしても、SUNNYが連絡を取らなくなる理由であり、芹香が最終的に遺産をメンバーに残す場面に繋がる理由にもなる重要なシーンが本作では削られている。

原作ではスジ(本作では奈々のポジション)というメンバーが顔に怪我を負った後に自殺未遂をするというショッキングな出来事があり、リーダーのチュナ(芹香)がメンバーの前で「また一緒に集まってダンスを踊ろう。絶対にまた集まろう。苦しんでいたら幸せになるまで一緒にいる。誰が先に死ぬか分からないけど、サニーは永遠だ」と話す。これがあるから、チュナは死ぬ前にサニーのメンバーに会いたいとナミ(奈美)にお願いするし、自分の遺産をそれぞれ悩みを抱えているメンバーに残して最後に遺影の前でメンバーにダンスを踊らせることになるのだ。そしてチュナの死によって行方不明となっていたスジも再び現れ、サニーのメンバーが一堂に会す。そこに感動がある。

どう考えても原作の骨子であるこのシーンを削っているのは端的に本作が友情や再生をテーマとしていないことを表していると言っていい。他のシーンでも全くこれがカバーされないのだから。細かいところも含めるとリメイクの結果、ダメになっている点には枚挙に暇がない。

特に本作では登場人物の苦労や人生が"心"というメンバーを除いて十分に描かれておらず、奈美にいたっては完全にスルーされている。原作では妻として母として忙殺されるナミがチュナとの出会いをきっかけにサニーのメンバーを探す中で自分らしさを取り戻すのだが、本作では奈美は昔を懐かしむだけで家庭にも特に問題がない。というか、ほとんど描かれない。また原作では作家を目指していたクムオクが正規の職を見つけられず意地悪な姑との貧乏生活を強いられているのだけど、本作ではこのポジションのキャラクターが削られており40代女性の苦労を描く気がないのは明らかだ。

一緒に見た友人も言っていたが、原作ではこうした苦労がチュナによって、メンバーが再会することによって回復され再生されるところにカタルシスがある。なので原作はスジが登場して映画が終わった後、スタッフロールで映される絵の中でメンバーがその後どうなったかが描かれる。しかし本作では最後に現代と過去のキャストが体育館で踊るという、まるで意味のない視覚的に派手なだけのシーンが挿入される。そしてスタッフロールには当時の雰囲気を醸し出した手書き文字や写真が延々と映されるのだ。これからも本作は90年代回顧をやりたいだけなのだと分かる。

リメイクをするにあたって物語を放棄して表層的に90年代回顧をやるのはどうかと思うし、それならば約2時間という映画のフォーマットはそもそも不向きだ。2時間かけて描くテーマがない本作は結局PV的な映像表現の集積にしかなっていないので、映画ではなくBEAMSの40周年プロモみたいな感じで何かのCMやプロモーション動画を作ってくれると面白かった。三浦春馬のシーンはどれも良いし。

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と「SUNNY 強い気持ち・強い愛」は映画に向いていない内容だったのでチョベリバだったけれど、原作である「サニー 永遠の仲間たち」はチョベリグだ!