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物語が加速し、深みが増す『高い城の男』シーズン2はシーズン1よりもさらに面白い

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先日リリースされた、Amazonオリジナルドラマ『高い城の男』シーズン2を完走しました。シーズン1に引き続き1時間×10話だったので意外とヘビーでした。ただ、登場人物の紹介や背景の説明がシーズン1で済んでいるため、シーズン2はテンポよく進みまして、シーズン1以上に内容が濃かったです。

いやあクォリティ高い。正直なところ、このレベルでドラマを作られたら他のテレビ局は堪ったものではないでしょうね。ドラマの製作元もWeb企業にシフトしていく未来が見えてきました。

日本のAmazonではシーズン1が1年遅れで公開されたかりのため、残念ながらシーズン2が観られるのはまだ先になるかと思います。そんなわけで、日本よりも一足お先に観た形になりますが、ネタバレ無しの感想とネタバレありのあらすじ・感想を。

シーズン1はAmazonプライム会員なら無料で観られます。感想記事は以下から。

muga.hatenablog.com

感想(ネタバレ無し)

まず、シーズン2はシーズン1の続きなので、シーズン1を観ていないと全く楽しめません。シーズン1での謎が明かされたり、登場人物によりフォーカスしたりとシーズン1の情報が前提となっています。そんなわけで、ちょろっとシーズン1の話には触れていますが、核心的なネタバレは避けていますのでご安心を。

シーズン1に引き続き多くの登場人物が織りなし、時に交錯する物語が魅力的です。ジュリアナとジョー・ブレイク、フランク、日本軍のタゴミさん(漢字は田上なんですけどね)、キド大尉、ジョン・スミス親衛隊大将のそれぞれの物語の背景や過去も明かされて、深みが増しています。

これらの役柄を演じる俳優たちの演技も光ります。タゴミさんとキド大尉の日本語が気にならないと言えば嘘になりますが、それは抜きにしてもみんな良い演技しています。特にジョン・スミス親衛隊大将を演じるルーファス・シーウェルは良いですねえ。役どころが良いのももちろんありますが、冷徹に見えて思い悩むシーンでの表情が印象的です。

シーズン2では、とある事件をきっかけに物語全体が大きく動くのですが、それに向けてのキャラクターの動き、あるいは明らかになる事実を楽しめました。シーズン2全話が一度に配信されたので3、4話ずつ連続で観て全10話を消化しましたが、週に1本のペースで観ても十分楽しめるストーリー展開だなと。いい意味で予想を裏切られた箇所もあって面白かったですね。

それから、今回はより一層ドイツ側が出てきて、ドイツに支配されたアメリカ合衆国の仮想の生活やファッションがたくさん映っていて、それも楽しめました。肩パッドが入った女性の服装可愛いです。

と、ネタバレをしないと、詳細に感想を書くのは難しいので、ここからはざっくり各話のあらすじとネタバレ有りの感想を書いていきます。

シーズン2各話のあらすじ

以下、ネタバレ注意です。

第1話「The Tiger's Cave / 虎の穴」

シーズン1のラストで手に入れたフィルムはジョー・ブレイクがニューヨークのジョン・スミスに無事届け、ジョン・スミスはそれをベルリンのヒトラーに手渡す。

一方で、ジュリアナはこの件でレジスタンスから裏切り者とみなされる。ジュリアナは拉致され、フィルムが大量に保管されている場所へ案内される。そこでジュリアナは観たフィルムに誰が写っていたかを詰問されるが、一人見覚えがあるのに思い出せない人が居ることに気がつく。その後他の場所へ連れ去られそうになるが、間一髪脱出しレジスタンスの手から逃げた。

フランクは帝国軍に捕らえられた無実のエドを救うために、古物商のチルダンの元を訪れ帝国軍とのパイプがある日本人を探す。タゴミさんはシーズン1の最後で見た、連合国が第二次世界大戦に勝利している現実の世界線は夢だったのかと困惑していた。

第2話「The Road Less Travelled / 行く人の少ない道」

ジュリアナは負傷しながらもレジスタンスから逃げてサンフランシスコの実家へと帰った。そこでフィルムに写っていた一人が、父の友人のジョージ・ディクソンであり、彼は姉のトゥルーディの実の父であるという事実を聞かされる。一息ついたのも束の間、レジスタンスから逃げるため、ジュリアナはドイツ大使館へと亡命するのだった。

フランクは強引にヤクザと交渉し、偽物の骨董品を作るためにエドを解放するように要求する。その結果、キド大尉がヤクザと取引をし、エドは解放される。しかし、それは同時にヤクザのために偽物の骨董品を売りさばいてお金を手に入れる必要があることを意味していた。

ジョー・ブレイクはニューヨークに戻り元の生活に戻ろうとするが、ジョン・スミスからベルリンの父親がジョーに空いたがっていると聞く。自分を捨てた父親に会うためジョーはベルリンへと向かう。

キド大尉は新しくサンフランシスコに配属した小野田将軍との関係を探りつつ、ジュリアナがレジスタンスから逃げた一件を操作するなど、引き続きフィルムを巡る一連の事件を担当していた。

第3話「Travellers / 旅人」

ジュリアナは亡命が認められ、ジョン・スミスの庇護の下でニューヨークでドイツ生活を送り始める。心機一転髪を切ったジュリアナはジョー・ブレイクを尋ねるがジョーは既にベルリンへと旅立っていた。

小野田将軍は厳しい軍人で、タゴミさんに越権行為をしないように注意する、キド大尉にも厳しく当たるなど、その権力を誇示し始めた。自分の見た夢は現実なのではないかと疑うタゴミさん、ジュリアナを追い続けるキド大尉。日本軍の中でも物語が動き始めた。その頃、フランクはヤクザへの支払いのため骨董品作りを始める一方で、レジスタンスの活動にも協力し、積極的に活動に関与していく。

ジョン・スミスの息子であるトーマスは病気を患っていた。かかりつけ医であるジェリーは法律に基づき、それを政府に報告しようとする。息子が劣性と判断され処刑されることを危惧し、ジョンはジェリーを暗殺した。

第4話「Escalation / 激化」

タゴミさんは小野田将軍がウランを使って核兵器を作り始める中で一般市民をも被曝のリスクに晒したことにオフィスで葛藤していた。亡き妻の写真を胸に瞑想を始めると、オフィスではなく誰かの家の中に居ることに気がつく。そこは妻も生きているもう一つの世界、連合国が勝利した現実世界だった。キド大尉は小野田将軍をクラブに連れていきベロベロにした上で、フィルムに関して調査するために泥酔した将軍に書類を捺印させるなどの活躍(?)を見せる。

ジュリアナはジョン・スミスの家に招かれ、ドイツの生活を学び始める。一方でジョー・ブレイクが居ないと分かり、続いてフィルムに写っていたジョージ・ディクソンを探す中でレジスタンスに襲われ危険にも晒されるが、ジョージとコンタクトを取ることに成功する。

フランクはレジスタンスの活動にエドを巻き込み、爆薬を日本軍から奪う。そして、フランクは日系アメリカ人の女性と肉体関係を持つように。

第5話「Duck and Cover / さっと隠れて頭を覆え」

ジョー・ブレイクは自分の出生について真実を知る。父親が自分を捨てたわけではなく、SSのエリートとなるべく生まれた自分を母親がニューヨークに連れ出したのだった。この事実を聞かされたジョーは困惑するが、父親の説得もありしばらくベルリンに留まる。

現実世界へと飛ばされたタゴミさんは、日本とドイツに占領されたアメリカ合衆国とは何もかも異なる景色や物にただただ驚く。また、その世界では亡くなった妻も生きており、戦死したはずの息子はこの世界のジュリアナと結婚し子供ももうけていた。そして、世界はキューバ危機を迎えており反核・反戦争の運動が高まり、息子とジュリアナもそれに参加していた。

ジョージ・ディクソンはレジスタンスの一員だった。ジュリアナはジョージと取引し、自らの安全と引き換えにジョン・スミス一家の情報をレジスタンスに提供することになる。このこともあり、ジュリアナはジョン・スミス一家と一層近づいていく。

キド大尉は亡命したジュリアナがジョン・スミスの庇護下に置かれていると知り、すぐにジョンの元へ飛びジュリアナの引き渡しを求める。ジュリアナの引き渡しは叶わなかったが、大尉とジョンは二人で密談を交わす。

第1話でジュリアナが連れて行かれた、フィルムの保管場所はごく一部のフィルムを除いて証拠隠滅のためレジスタンスの手によって施設ごと燃やされるのだった。

第6話「Kintsugi / 金つぎ」

ジュリアナはジョン・スミスの妻ヘレンとその奥様友達たちに近づく。その中の一人、報道局勤務の夫を持つルーシーとの関係を深めていく。ルーシーは子供が出来ないことを悩んでいた。

ジョン・スミスの息子トーマスは青年派遣隊に招集されアルゼンチンへと旅立つことが決まる。しかし、息子を心配するヘレンはジョンのオフィスに押しかけ、トーマスのことを相談する。これに対して、トーマスはアルゼンチンへ行き、現地で誘拐されてそのままそこで死ぬまで生きるように手配しているというプランをジョンが伝えた。

ジョー・ブレイクは大臣である父親の家に泊まっていたが、そこで父親の人となりや過去を知り、父のそばでドイツのために働くことを決意する。

元いた世界へ戻れないタゴミさんは現実世界でキューバ危機に反対運動をする息子とジュリアナの姿を見ていた。この世界では家族との間に深い溝があり、孫のことで何か事件があったようだった。割れていた、孫の名前が書かれたマグカップを手にとって金つぎをする。

第7話「Land O' Smiles / 微笑みの国」

ジュリアナは医者ジェリーの葬儀に参加し、そこでトーマスが気を失うところに居合わせる。ヘレンからは、それを見なかったことにしろと念を押され、それに同意する。ヘレンはジョンに対して、その現場を見たのはヘレン一人だけだと伝えた。

エドの巧みなセールストークで古物商のチルダンは偽物の骨董品を売ることに成功。その売上金を持ってヤクザに手渡そうとする。そこにちょうどキド大尉が現れ、フィルムを燃やした罪で岡村組長を射殺する。しかしこれは誤解で燃やしたのは岡村ではなかった。キド大尉はこの件で、小野田将軍に目をつけられる。岡村組長が死んで支払い義務がなくなったため、エドとチルダンは売上金を手に入れることになる。

ジョン・スミスの元にベルリンからヒトラーが危篤状態にあるとの電話が入る。これを受けてジョンは全てを急いで進める決意をする。

第8話「Loose Lips / 口は災いの元」

ジョー・ブレイクは父と一層打ち解けていたところで、ヒトラー危篤に伴い父と司令部へと向かう。そこで決まったのは父が首相となりヒトラーの執務を代行することであった。父はジョーに対して危険が及ぶ可能性があるからすぐにニューヨークに去るように伝えるが、ジョーは残ることを決意する。

ジュリアナの元にジョン・スミスが現れる。第1話でジュリアナにフィルムを見せた高い城の男の名前を明かしながら、フィルムの内容についてジュリアナに質問するのだった。その後、ジュリアナはルーシーとテレビを見て、ヒトラーの容態が良くないことを知る。ジュリアナはこれをレジスタンスに伝え、レジスタンスは次の活動への準備を始める。

キド大尉のところにドイツ軍のディールズが現れ、シーズン1の皇太子殺害にドイツが関わっていたという証拠を持って亡命を希望する。キド大尉は、前回の訪問時に作ったジョン・スミスとのホットラインを使って、亡命の裏に何があるのかを探りを入れた。

フランクはレジスタンスの活動に身を投じ、日本軍の基地への攻撃を計画していた。エドはレジスタンスにのめり込むフランクと距離を感じるようになり、以前のようには振る舞えなくなる。ヒトラーの容態変化を受けて、サンフランシスコのレジスタンスも計画を実行に移すべく動き始める。

その頃、タゴミさんは現実世界で家族との和解に成功する。

そして遂にヒトラーが逝去するのだった。

第9話「Detonation / 爆発」

タゴミさんの居る現実世界ではキューバ危機が回避される。反戦争運動の中で息子が手に入れたビキニ環礁での水爆実験映像のフィルムを持って、タゴミさんは元の世界へと戻るのだった。フィルムを持ったタゴミさんはキド大尉にこれを見せるべく、基地へと赴く。

ジュリアナはレジスタンスに使われ、ルーシーの夫を騙し、テレビでヒトラーが逝去したと無理矢理放映させる。この後、ジョーの父がヒトラーの死を正式に伝える放送を行うが、そこで伝えられたのはヒトラーが日本軍によって毒殺されたという嘘だった。これを機に日本とドイツが戦争へと向かう機運が高まる。

エドとチルダンはサンフランシスコを脱出、フランクは日本軍の基地爆破へとそれぞれの道へ向かう。フランクは爆薬を積んだ車を基地に入れることに成功、離脱しようとしたところでキド大尉に見つかり、爆発に巻き込まれる。この爆発によって、小野田将軍や軍幹部は死亡、キド大尉が暫定的に軍のトップとなる。

第10話「Fallout / フォールアウト」

爆発を免れたタゴミさんはキド大尉にビキニ環礁水爆実験のフィルムを見せて、これをドイツ軍にも見せて戦争を止めることを提案する。キド大尉はこれを真剣に受け止め、ニューヨークのジョン・スミスの元へ急行し、フィルムを見せる。ジョン・スミスは事の重大さを理解し、ベルリンへとフィルムを運ぶ。

ジュリアナはジョージ・ディクソンにトーマスの病気について伝えなかったことを責められレジスタンスに襲われるが、これに抵抗し最後にはジョージを射殺した。その後ニューヨークを離れた。

ドイツ軍は東京などの本部だけではなく、日本領へのミサイル攻撃を計画していた。もうすぐで発射するというタイミングで、ジョン・スミスがベルリンに入り軍幹部にフィルムを見せる。日本軍が水爆を開発し、数年前にビキニ環礁で実験した映像だという嘘をついて。そして、ジョンの計略によってジョーの父は逮捕され、戦争開始は回避される。

ジュリアナが辿り着いた先には高い城の男であるアベンセンの姿があった。アベンセンの口からは、どの並行世界でもジュリアナが希望となって世界を救うが変えられない結果もあることが明かされた。それを聞かされても、全てを失ったジュリアナは悲しみに暮れる。しかし、アベンセンは全てを失ったわけではないと、ジュリアナを案内する。そこに居たのは死んだはずの妹トゥルーディだった。

シーズン2感想:キャラクターが立体的に描かれた

あらすじが長くなってしまいました。10時間分をまとめるのはさすがに無理がありましたね。きっと全体の半分も網羅できていないです。

最初にも書きましたが、本作の魅力として登場人物たちの物語がこのように複雑に絡み合う点があります。ドラマという10時間尺だからできる業で、映画ではできない部分です。この時間を使って、シーズン2はシーズン1以上にキャラクターの心理に迫っていました。

ジョン・スミスが特徴的で、トーマスの病気と妻ヘレンへの対応から垣間見える優しさと厳しさ、そしてジェリーを殺害するに至る狂気、任務にあたって手段を選ばない冷徹さ、キド大尉との繋がりで見せる男気など、シーズン1でも良いキャラでしたが、シーズン2のジョン・スミスは更に深みが増していますね。それから、ジョー・ブレイクも父との対立、和解が良かったですね。

一方で、日本側は比較すると深く描かれませんでした。ジュリアナが早々にドイツ側に渡ってしまうのでしょうがないんですかね。タゴミさんが現実世界の家族と和解するところは長く描かれていますが、タゴミさんが口数少なすぎてよく分からないんですよね。現実世界に飛ばされてる割に、混乱もなく落ち着いているしちょっと違和感があります。ちゃんと家族と会話すれば1話で片付きそうで、少し間延びした印象がありました。日本人としては「え?金つぎ?」というのもありますし。

というわけで、キャラクターによって偏りはありますが、それでも登場人物のキャラクターがより立体的に描かれたのがシーズン2だったと思います。フランクは最後まで好きになれませんでしたが。

シーズン2感想:世界設定が魅力的

シーズン1では曖昧だった世界設定、平行世界の可能性の一つとして日独が勝利した世界があり他の世界にも移動可能、フィルムはその移動によって持ち込まれている。あるいは持ち出されているということが明かされました。

設定なのでいいんですが、こうなると謎が深まる部分も多くあります。登場人物は全員、本当にこの世界の住人なのかという疑問。上には書きませんでしたが、タゴミさんの部下コトミチは現実世界線から来ていると分かりましたし、最後に登場したトゥルーディ、ないし死んだトゥルーディは別の世界線から来ているのではないかと思います。

この他に他の世界線から来ているキャラクターが居ても全くおかしくありませんし、プレインズウォーカーみたいに色々な世界を渡り歩いている人も居るかもしれません。ひょっとしたら高い城の男がそうなのかもしれませんし、シーズン3でそうした人物の登場ありえるのかな?

それから、この平行世界フォーマットがすごいと思うのが、例えば露中が支配している世界とか、そもそも戦争が終わっていない世界とか、可能性を広げられる点です。アベンセンの話をそのまま受け取ると、ジュリアナが特異点として活躍すれば各世界で周りの人物たちもそれに巻き込まれていって物語ができちゃうんですよね。連続ドラマとしてはおいしい設定。

こう書くととてもSFチックですが、ドラマ自体は全くSFではなくて戦争の匂いが近くに漂う世界での群像劇です。そこもすごい良いところだと思うので、シーズン3がSF方向に向かうとしてもそうでないとしても、人間にフォーカスを当てたドラマになって欲しいです。

日独が戦争に向かう緊張感はとても良かった一方で、もう一話早くヒトラーを殺してもらって、戦争に向かう両軍の動きを細かく描いて欲しかったなという気持ちもあります。そういう軍事的な動きよりも、登場人物それぞれの動きに焦点が当たっているのは理解できますし、それも面白いので文句ではないのですが。

シーズン3も相当楽しみ

そういうわけで、大満足のシーズン2でした。シーズン3はどうなるのか、今から楽しみです。

高い城の男 (字幕版) シーズン1