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オリヴィエ・アサイヤス『パーソナルショッパー / Personal Shopper』の感想

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http://www.festival-cannes.com/en/films/personal-shopper#pid=3294

フランス人映画監督オリヴィエ・アサイヤスの最新作『パーソナルショッパー / Personal Shopper』を観てきました。過去作品を観ていなかったので、監督の作風は全く知らなかったのですが、何とも淡い映画だというのが印象です。解釈が観客に委ねられる作りになっていて、さらに題材がスピリチュアルなので幻想的かつ曖昧なんですよね。久々にそうした類の映画を観たので心の準備ができておらず、受け止め切れなかったから淡いと感じたのかもしれません。

またトワイライトシリーズで有名なクリステン・スチュワートが主演で、恐怖と対峙するシーンから少し官能的なシーンまで幅広い演技が見られました。何を考えてるんだろうと思うシーンも少なくなかったのですが、そうした少しミステリアスな雰囲気が本作にマッチしていたのは間違いないでしょう。それはそうと少し強そうな顔してますよね。観る前はてっきり幽霊と戦うのかと思ってました、すいません。

さてさてそんなわけで感想を書いていきますが、曖昧さ故に私の感想や解釈が大いに間違っている可能性もあるので、その場合はご容赦ください。

冒頭のあらすじ(ネタバレなし)

アメリカ人のモーリーンは、多忙な金持ちに変わって買い物などを代行するパーソナルショッパーとしてパリを拠点に働いていた。幽霊と交信できる力がある彼女はフランスの古い屋敷を調査することになる。その屋敷で奇妙な現象に見舞われたモーリーンのスマホに正体不明のメッセージが入るようになる。

曖昧さを受け入れられるか

今回はネタバレなしで説明していきます。

本作のストーリーの肝は、スマホに届く正体不明のメッセージの正体、そして劇中で起こるとある事件の謎となっています。もちろん、幽霊と更新できる力というのも同様に大切な要素。これらの要素が絡み合っていて、最終的にそれが(概ね)解けるという展開になっています。概ね、と言うのも少し解釈の余地が残るためでして、先にも書いた曖昧さがエンディングまで残ります。

単純に驚かせるだけのホラー映画ではなく人間の心に潜むものを描き出そうとしているので曖昧さは効果的で、白黒付けられない人間の心を表せていると思いました。本作をホラー映画と言っていいのか分かりませんが、日本のホラー映画で怖さが間接的なものだったり言外の何かになっていたりするのに近いかもしれません。直接的な描写も一部あるとは言え、会話の間や映像のワビサビも恐怖を引き出せていました。

しかしながら、目に見えないもの・内なるものを描写するには説明不足、演技の力量不足であると言えなくもありません。私自身は幽霊が居るだけで現実味が薄れた世界だと思ってしまう節があるので、少し引き気味に映画を観始めてしまったことがそう感じた理由かもしれません。ゴースト・バスターズみたいに頭空っぽにして楽しめるものであればまた違うんですけど。

それはそうとパーソナルショッパーというだけあって買い物をたくさんして高級な服が多く出てくるので、そういったファッションに興味がある人はそれだけでも楽しめるかもしれません。クリステン・スチュワートのスタイルの良さはとても記憶に残っています。そしてごく自然にトップレスになるシーンもあって、流石フランス映画と思いました。

エンディング後に隣の席の人に話しかけられた

余談ですが、終映後に隣の席に座っていた女性に話しかけられました。「この映画、少し奇妙だったよね?」と聞かれたので、私は「何とも曖昧でしたね」と返したら、その方は「<ネタバレ>ってことでいいんだよね?」とオチの確認をしてきました。実はそのオチは私が考えてたのをは少し違っていて、なるほどそういう解釈もあるのかと学んだ次第です。

「奇妙だったけど、お決まりのストーリーを楽しみたければ『美女と野獣』を観ればいいのよね。これはアートの映画だし」と言っていたのが印象的でした。確かに本作はアートの類なのかもしれないなと妙に納得しました。ちなみにオリヴィエ・アサイヤスは本作で2016年カンヌ国際映画祭の監督賞を受賞しています。思い返すと客層も普段のブロックバスターの時の顔ぶれとは違って、アート系の学生に見受けられる人や年配の方も多かったですね。

現時点で日本公開はアナウンスされていないようですが、ほぼ間違いなく小さな映画館での上映となると思うので、興味がある人は見逃さないように注意したいですね。