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加減を知らない『ハクソーリッジ Hacksaw Ridge』。沖縄戦での衛生兵の活躍を描くメル・ギブソン監督作品

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Hacksaw Ridge | Official Movie Site | On Digital HD Feb. 7 | On Blu-Ray™ & DVD Feb. 21​

アンドリュー・ガーフィールド主演、メル・ギブソン監督作品の『ハクソーリッジ 命の戦場』観ましたよ。アカデミー賞にも数部門でノミネートされていて、アメリカで昨年公開された時から評判が高い作品です。日本公開日は2017年夏でまだ詳細未定のようです。

本作は太平洋戦争の沖縄戦で衛生兵として活躍したデズモンド・ドスの生い立ちと沖縄戦での活躍を描いた、実話を元にした作品です。ドスは敬虔なキリスト教徒なのですが、特に異端と扱われることもあるらしいセブンスデー・アドベンチスト派でして、その教えを強く信じているために困難に巻き込まれつつも、それが沖縄戦での活躍につながります。鑑賞前にこの宗派やキリスト教について、さらにハクソーリッジ、日本語だと「前田高地の戦い」についても調べておくと理解が深まるかも。

ただ、実話といえど脚色もされているようです。Wikipediaによれば、ドスの超人的な活躍が実際には短期間ではなくある程度の期間で成し遂げられた功績であると書かれています。私も観ながら「これはいくらなんでも無理だろう」と思っていたので、脚色と分かり少し安心しました。

端的にいうと、私にはあまり響きませんでした。後の感想にも書いてますが、キリスト教の信仰に関する部分が理解不足で腹落ちしなかった点と、アメリカ万歳という内容ではありませんが戦争を否定するわけでもなくスタンスが分かりかねる点です。後者に関しては、イラク戦争の英雄クリス・カイルを描いた『アメリカン・スナイパー』の時も議論になった気がしますが、今作でも議論になりそうです。アメリカではもうなっているかも。

それはそうと今日行った映画館は暖房が故障していて、外とあまり気温が変わらない寒い中での鑑賞となりました。そのためただでさえ長い139分の上映時間が余計に長く感じられ、さらに風邪を引いた気がします。なんとも過酷な映画体験でした。

というわけで以下感想です。

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冒頭のあらすじ(ネタバレ無し)

デズモンド・ドスはヴァージニア州の片田舎リンチバーグで、退役軍人の父、敬虔なキリスト教徒の母そして二人でよく遊んでいた弟のハルと暮らしていた。ある日、ドスとハルはケンカになりデズモンドはレンガで弟の頭を殴ってしまう。幸いハルは無事だったが、この事件をきっかけにドスはモーセの十戒の一つである「汝殺すなかれ」という言葉を頭の中に深く刻むようになる。

それから15年後、ドスはたくましい青年に成長した。車の下敷きになった人を病院に運んだドスはそこで、看護婦であるドロシーに一目惚れ。ドロシーに猛アタックの末、二人は恋仲となる。戦争が激しくなる中で、ハルは軍への入隊を決意。第一次大戦のフランス戦で友人を亡くしていた父親はこれに猛反対するが、ハルの決意は変わらなかった。それからしばらくしてドスも軍への入隊を決意するが、兵士としてではなく銃を持たない衛生兵としての志願であった。

感想:テーマは分かるんだけど、色々と度が過ぎる(ネタバレ無し)

メル・ギブソンと言えば、過去作品では『ブレイブハート』がアカデミー賞を受賞していますが、この作品は同時にグロ描写が直接的な事でも有名。本作でも戦場シーンはグロい描写が多いです。人が人を殺す舞台である戦場を正面切って描いたらグロくなるのは当然で、私としてはきちんとそこを映したのは好印象でしたが、本当に苦手な人は絶対に観ない方がいいです。後半は死体、はらわた、ウジなどがかなり頻繁に映ります。

そして戦闘描写も凄まじく、死体を盾に使う、手榴弾を投げられたら相手を捕まえてそれで爆発を防ぐ、死体撃ち上等、ナイフで何度も刺す等戦争の醜い部分が凝縮されています。

戦場のリアルな描写を見ると戦争が苛烈で、繰り返してはいけないというメッセージを感じます。こういったことを純粋に描写できるのって今は映画くらいなので、戦争抑止に映画も貢献してそうだと思いました。ただ一方で、これでもかというくらい映すし最終的にはそれを乗り越えてアメリカが勝利するので、「アメリカつえー」的な文脈でも解釈できてしまうんですよね。勝ったのは史実なのでしょうがないんですが、映画として反戦なのか好戦なのかどっちなんだと言いたくもなります。その併存こそがポイントなのでしょうか。

また、戦地に赴きつつも「汝殺すなかれ」を忠実に守って衛生兵として活躍したのは分かるのですが、先程も書いた沖縄戦での活躍は脚色されていることもあり度が過ぎているように感じられて、どうしてそこまでするのかという疑問も浮かびました。第二次大戦の真っ只中という社会情勢と自分の信仰を踏まえて、そもそも戦争に参加するかどうか、さらに戦闘に加担するかどうか等を考えた結果、落とし所として衛生兵として志願した事実があるわけで、文句の言いようもありません。ただ、その辺の機微が私にはさっぱり分からず、沖縄戦での活躍もサイコパシックに見えるんですよね。私のキリスト教信仰の知識、理解不足が理由だとは思いますが。

それから、沖縄戦なので敵は当然日本兵です。人によっては描き方が雑だとか、悪意があると思う人も居そうですが、私は特にこの点は気になりませんでした。むしろ日本兵が強く描かれているように感じましたね。知識がないので歴史的に正しいのかどうかは分かりませんが、わざわざ切腹シーンを入れたのも映像として戦争終結がよく表せるのとともに敗者側にも覚悟と犠牲があったことを示していると思いますので、日本兵の描写に関しては批判するところではないかなと思うのです。この映画の主眼でもないですし。

というわけで戦場での描写も過剰だし、ドスの信仰も深すぎるしと、本作は加減を知らないなというのが私の感想で理解・共感できない部分が多く、あまり評価できませんでした。ただ、メル・ギブソンの過去作品を思い返すと『アポカリプト』『パッション』も過激な作品だったわけで、メル・ギブソンらしさがぶれてないと言えるのかもしれません。メル・ギブソンの過去作品が好きな人は楽しめるのかな。

以下、ネタバレありのあらすじです。

結末までのあらすじ(ネタバレ)

ドスはジャクソン基地に赴任した。小隊の一員として訓練に励む日々だったが、ある日の射撃訓練でドスはライフルを握ることを拒否したため問題に発展する。ドスは衛生兵になるためにライフルを握る必要はないと主張するが、これを受けて上官たちは精神科医にドスを診断させて軍隊から除名しようと試みる。小隊長はドスの行動を問題視し、小隊全員に懲罰訓練を課すなどした結果、小隊の中でドスのことをよく思わない連中にドスはボコボコにされる。それでもドスは自分は衛生兵として戦地で負傷者を救いたいと軍役を希望した。

その後も訓練は続き、訓練を完了し一時的に地元に帰れる日がやってきた。ドスはドロシーとの結婚式のため帰ろうとしていたが、ここに上官が現れドスはライフル訓練を完了していないので基地を離れることは認められず、命令に逆らったとして反対に収監されることになった。ドロシーがドスの居る留置所にやってきて罪を認めるように説得するが、ドスはライフルを握る必要はないと自分の信念を曲げなかった。

ドスの裁判の日がやってきた。ドスはライフルを握る必要はないと主張するが、上官たちは命令違反での追放を希望した。そこにドスの父親がワシントンDCの裁判所あからの書簡を持って現れた。そこにはドスの行為は認められると書かれており、それを聞いた上官たちは願いを取り下げドスの主張が認められる形となった。

そして沖縄の戦地にドスたちは赴いた。ハクソー・リッジ(日本語だと前田高地)を登り、その先に居る日本兵を攻撃する任務が小隊には課され、ドスは衛生兵として負傷兵たちの救出と手当てにあたる。戦闘の最中、訓練所から一緒のスミシーと話す中で、ドスはライフルを手にしない理由を語り、二人は結束をより強める。

日本にとっても要所であるハクソー・リッジは日本兵が多く潜伏しており、想像を超える激戦でスミシーも帰らぬ人となった。日本軍に押されてアメリカ軍は一旦退却することになるが、ドスは退却せずに一人で負傷している兵士を次々に救出しロープを使ってハクソー・リッジから負傷兵を次々に崖の下に降ろしていく。崖の下では仲間が待ち構えており次々に負傷兵を基地へと運んでいった。

一晩の間に次々と負傷兵が基地に運ばれてくることに気がついた上官はドスの活躍に驚きを隠せなかった。小隊長を救うタイミングで日本兵に気が付かれたドスであったが、間一髪逃げ切り崖の下へと降りることに成功する。崖の下で待っていたのは訓練所時代の仲間だった。彼らはかつてドスを邪険にしていたものの、何人もの命を救う活躍を目の当たりにしてドスへの態度を変え、彼を賞賛した。

ドスが基地へ戻ったのも束の間、次の作戦のため一行は再びハクソー・リッジへと向かう。上官はドスの活躍を評価し、ドス抜きでは作戦は行えないとしてドスにとって安息日ではあったもののドスを連れていく。戦闘はアメリカ軍優勢で進み、ついには日本兵が白旗を上げて塹壕から出てきた。しかしこれは罠で手榴弾を投げ込んできたのだった。仲間を守るため手榴弾を弾き返したため負傷したドスだったが、今度は仲間たちが絶対にドスを死なせないと彼を担架で運びドスはハクソー・リッジの下へと降ろされる。

ドスは75人の兵士の命を救ったとして、良心的兵役拒否者として初めて表彰された。帰国後ドスは1991年にドロシーが亡くなるまで一緒だった。そしてドスは2006年に永眠する。