ゲインオーバー

MUGA, I am.

BBCの番組で開発されたデバイスで、パーキンソン病患者が再び自分の名前を書けるようになった

昨晩、BBC2で放送が始まった『The Big Life Fix』という番組が面白かったのでご紹介。

www.bbc.co.uk

この番組はデザイナーたちが、様々な課題を抱える人に協力してデザインの力で問題を解決するために奮闘する番組です。

第一回の放送では、「カメラで写真を撮りたい、病気によって手がなくなった少年」「ウェールズの山間部にあるインターネットや電話がほとんど使えない村」「パーキンソン病で絵が描けないグラフィックデザイナー」の3つが扱われました。

どれも興味深くて、それぞれのエピソードがやや短いものの、デザインで問題解決する試行錯誤の過程が描かれていて楽しめました。

その中でも印象的かつ心を打たれた、グラフィックデザイナーの話を少しまとめてみました。

グラフィックデザイナーのEmma

パーキンソン病患者Emmaのオフィスを尋ねる番組プレゼンターのSimonとデザイナーのHaiyan

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現在32歳のEmmaは29歳の時にパーキンソン病を発症したものの、引き続きグラフィックデザイナーとしてデザイン事務所で働いています。

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パーキンソン病の症状である手の震えはデザイナーである彼女にとって深刻な問題で、クライアントに自分で絵を描いて説明できない苦労もあったようです。

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自分の名前も満足に書けないことは、個人的の感情にも、グラフィックデザイナーとしての仕事にも深く影響していました。

プロトタイプの製作

Emmaとの面談を終えたHaiyanは手の震えを抑えて、絵を描くためにデバイスの試作品を作成します。

一つ目はダンパーによって手の震えを和らげるデバイス。

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この写真の奥の方のスタイラスを持って手を動かすと、ダンパーにより震えが抑えられた中央にあるペンが線を描くという仕組み。

デバイスがあまり良く機能しなかったのか、Emmaの感想は芳しいものではありませんでした。

二つ目は磁石を敷いたボードと、ペン先に磁石を置いたもの。

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ボードとペン先の磁石が反発することで、震えが和らぐという原理だそうです。(番組中で詳しく説明がなかったため詳細不明)

ペンを持ち上げるとペン先の磁石が落ちてしまい、使い勝手は良くなかったようでEmmaの反応はイマイチでした。

Haiyanはこの2つのデバイスとは異なる新たな道を模索します。

手首に振動を与えることで震えを和らげる

振動することで手の震えを相殺するスプーンから発想を得たHaiyanはこれをペンで線を描くことに応用します。

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後日、パーキンソン病で悩む患者を集めてインタビューと新デバイスのテストを行うHaiyan。そこに集まった患者たちの手首に新デバイスの試作品を装着して、線を描いてもらいます。

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患者たちはデバイスを装着すると線をスムーズに描けるようになりました。デバイスから手に振動があるため、必ずしも心地よいわけではないようですが、それでも線が描けることに驚きます。

パーキンソン病では脳からシグナルが送られることで手の震えが起きると考えられており、振動や音で他のことに気を散らすことで震えの症状を緩和できることもあるそうです。

この理屈に基づいて、Haiyanは手首に振動を与えることで気を散らして手の震えを抑え、線を描けるデバイスを製作したのです。

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手の震えは人によって異なるのでソフトで制御し、それぞれのスイートスポットを探して設定する必要もあります。

新デバイス、「emma」

こうして完成したデバイスをEmmaに届けにやってきたSimonとHaiyan。

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デバイスの入っている小さな箱をEmmaに渡します。

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中に入っていたのは腕時計型のデバイス。名前は「emma」。これを見たEmmaは「これがどう機能するか分からないけど、素敵」と感想を漏らします。

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Haiyanは最終的にプロトタイプを腕時計に落とし込んだのでした。早速Emmaに装着してもらいます。

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さらにプロトタイプではPCで行っていた制御もアプリに変更し操作しやすくしました。

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装着し起動したただけで手の震えが弱まったと感じるEmmaに早速文字を書いてもらいます。

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そこには「emma」という文字。

彼女はパーキンソン病を発症して以来うまく書けなかった自分の名前を書くことができるようになったのです。

喜ぶEmmaとHaiyan。

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名前だけでなく、真っ直ぐな線を描くこともできました。

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デバイスを装着していない時の図と比べると、その効果が一目瞭然です。

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こうして、Emmaは字を書き、線を描くことが再びできるようになったのです。

残念ながら日本では観られない

BBCはiPlayerというWebサービスで過去番組を視聴可能なのですが、英国外から観ることはできないようです。おそらくIPによる制限だとは思いますが。そういうわけで残念なことに日本では視聴不可となっています。

次回予告では「病気で声がでない男性」「泥棒と戦う農家」が出ていたので、この番組は病気の方や社会的な問題を抱えている人や地域を対象にしていく方向のようです。次週以降も気になったエピソードは紹介していきたいと思います。

今回、紹介したEmmaのエピソードはダイジェスト版が公開されていますので動画で観たい方は是非。

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